離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
「まさか君がそんなに思い悩んでいたとはなんて思わなかった。今考えてみると君の様子がおかしかったのもそのせいだったんだな……で、君は黙って身を引くつもりだったのか?」

 高い位置に見える横顔が凛音をジロリと睨んでくる。

「……はい。そうした方が暁斗さんは幸せなのかなって」

 正直に言うと、彼の顔が更に険しくなる。

「そうなったら、俺は間違いなく不幸になる。悪いが、君を手離すつもりは無かったし、これからも変わらない。嫌がられても、逃げられても、探し出して手元に置く」

 ――顔が怖い。でも怒っているのでは無くて、拗ねているような気がする。
 それがわかるようになったのは夫婦として暮らした日々のお陰だろうか。

「だが、そういう風に気持ちを言葉にしていなかった俺も悪かったな」
「いいんです、私だってちゃんと自分の気持ちを言っていませんでしたから」

 ふたりは話しながらエレベーターの前に立ち、暁斗が下ボタンを押し下りエレベーターの到着を待つ。
 すると、凛音の口から驚くほど自然に言葉が零れた。

「暁斗さん、私も暁斗さんの事が好きです。愛しています」
「……!」

 虚を突かれたのか、目を見開いて凛音を凝視する暁斗にさらに続ける。

「これからもずっと夫婦でいたいです。そしてお互いを想い合う穏やかな家庭を作りたい……この子と、一緒に」
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