離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
「お、旨そう!いただきます!」

 テーブルに付いた遼介は箸を取ると早速食べ始める。お腹が空いているのか、なかなかの食べっぷりだ。

「お肉ばっかりじゃ無くて野菜もちゃんと食べてよ」
「はいはい、姉さんってほんっと母親みたいだな。ていうか、俺の世話ばっかりしてないで彼氏作れよ。いつ嫁に行ってもいいんだからな」

 つい、世話焼き気質が出て口をだしてしまう凛音に遼介は呆れたように言う。

「お相手がいれば、いつでもお嫁に行っちゃうんだけどねー」
 凛音は敢えてふざけて答える。

 母が病気になってから、米田家の家事は主に凛音がしてきたので一通りの事は出来る。そういう意味ではお嫁には行けるかもしれない。
 逆に言うと、家族を常に優先して来たので今まで彼氏など出来たことはなかった。今も自分の恋愛なんて考えている場合ではないのだ。

「今まで父さんや俺の為にがんばってきてくれたんだから、いい人がいたらすぐにでも幸せになって欲しいんだよ――まあ、相手の奴がまともな男か俺がチェックしてからだけどな」

 少し照れたような弟の優しい言葉に凛音は目を細める。
 記憶に残る父と母はたまに喧嘩しながらも、お互いを想い合う仲良し夫婦だった。
 自分が結婚するとしたら、そんな両親のような穏やかな家庭を作りたいな、とは思う。
 
 でも、少なくともあと数年はそれどころでは無い。
 
 たった一人の残された家族である遼介が大学を卒業し、医者になるという夢を叶えるのを見届けるのが凛音の人生の最優先事項だ。
 自分自身の幸せを考えるのはその後。でも、弟にとって姉の勝手な思いは重荷になる事もわかっている。だから本音は隠しておく。

「ありがとう。いつになるか分からないけれど、その時が来たら遼介に相談するわ」

 凛音は笑って答えた。

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