離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
 凛音は自分のお腹にそっと両手を添えて微笑む。

「……さすが、だな。まさか病院のエレベーター待ちの間に告白されるとは思わなかった」

 少し間があった後、暁斗は呟くように言う。

「暁斗さんだって、言ってくれたの病室だったじゃないですか。しかも、洋一郎先生と寒川先生の前で」

 凛音が笑って答えると暁斗はやっと顔を綻ばせる。

「そうだな、ある意味俺ららしい。プロポーズしたのは特別室だったしな……いや、あれはプロポーズにはならないかもしれないが」

 確かにプロポーズと呼べるか分からないが、初めて結婚しないかと言われたのは、VIPエリアの特別室だったなと凛音は思いを馳せる。
 あれがこの結婚への始まりだった。

 エレベーターが到着した。凛音は暁斗に手を引かれて無人の内部に乗りこむ。

 暁斗は産婦人科のある階の『3』のボタンを正確に押す。

「もちろん、ずっとどころか死ぬまで夫婦でいるさ。逃がさないって言っただろう?覚悟しろよ、凛音――」

 言うと同時に暁斗は片手で妻の肩を抱き寄せると長身を覆いかぶせるようにして顔を近づけてくる。凛音も答えるように顔を上げた。

「――愛してる」

 エレベーターの扉が閉まると同時に、ふたりの唇は深く重なり合った。
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