離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~

 産婦人科の外来では休憩中に呼び出され、若干疲れた顔をした産婦人科医の結城医師が待っていた。

 50代のベテラン産婦人科医である彼女は平謝りする凛音に「剣持先生が慌てる貴重な姿が見れたから良しとするわ」と笑って優しく診察してくれた。

「間違いなく妊娠してるわ。ほら、ちょうど心臓が動いているのが見えるでしょう?」

(これが私の、私たちの赤ちゃん……)

 小さなモニターの中にトクトクと動いているものが見える。
 こうして実際に目の当たりにすると本当に自分の身体の中に新しい命が宿って……生きていてくれることを実感し、診察台の上で、思わず凛音は目頭が熱くなる。

 結城医師によると、立ち眩みは妊娠によるホルモンの影響で血管が拡張されて血圧が下がってしまった可能性もあるとの事だった。

「母子手帳もらったら、一通り定番の検査もしていくけど、貧血も合わせて気を付けてね。まずは胎児心拍数確認できているから一安心。今は7週、妊娠2ヶ月。生まれるのは来年の夏前ってとこかしら」

 結城医師の説明に横に控えていた暁斗は医療用語を使って色々と質問をしていたのだが、専門的過ぎて凛音にはよく分からない会話だった。
 でも夫が医師であるというのは頼もしいなとも思う。

「新米お母さん、それとお父さんも頑張ってね」

 そう言って結城医師はふたりを優しく励ましてくれた。

 この日からふたりは親として、そして夫婦として改めて共に歩き始める事になった。
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