離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
 命と向き合う現場で働いているのだから、何より患者が大切だと言う事はわかっている。
 仕事を何より優先する暁斗を尊敬しているし、応援したいと思っている。
 だから、寂しいと思ってはいけないのだ。

「お父さんはお仕事頑張ってるんだから、応援しないとねー」

 凛音はまだ目立ってない自分のお腹にそっと手を当て、語り掛けた。
 お腹の子へと言うより自分に言い聞かせるように。

 凛音が気分転換にテレビでお気に入りの犬の動画でも見ようかとリモコンに手を掛けた時、玄関の方でドアが開く音がした。

「あ、暁斗さん、お帰りなさい!」

 帰って来てくれた!と、凛音が弾んだ声を出して立ち上がり、玄関に向かおうとすると「今手を洗ってそっちに行くから来なくていい。座って待っていてくれ」という暁斗の声がする。

「あ、はい……」

 凛音はソファーに戻り、もういちど座り直した。

 確かに彼はいつも家に帰ると玄関に入ってすぐにある洗面室で手を洗ってからリビングに入って来るが、迎えに来ないで待っていろと言われたのは初めてだ。
 首を傾げながら言われたように待っていると、リビングのドアが開いた。
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