離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
「お帰りなさ……え?」
 視界いっぱいに入って来たのは深紅の薔薇だった。
 暁斗は胸に大きな薔薇の花束を抱えて近づいて来る。
 スーツの上着も脱がないまま彼はソファーに座る凛音の足元に跪くと呆気にとられた彼女に花束を差し出す。

「凛音、愛してる。一生大切にするから、俺と結婚してくれないか?」
「暁斗、さん……?」

 まるで騎士が姫に求婚するようなその姿は映画のワンシーンのような非現実的な構図なのに、暁斗がすると本当に絵になってしまうから不思議だ。

 突然の展開に呆然としながら思わず花束を受け取る。何本あるのか分からないが、ずっしりと重い。

「考えてみたら、君に正式にプロポーズした事が無かったからな」

 暁斗は凛音を見上げたまま悪戯っぽく笑う。

「そう、でした……けど」

 確かに、契約結婚を持ちかけられたのが正式なプロポーズに入らないのならそういう事になる。
 でももう結婚しているのに、という言葉が出かかる。

「俺たちは色々順番が違っていたろう?契約結婚という形だけの結婚をして、子供を授かって。その後気持ちを伝えて……ふと思ったんだ。妻として頑張ってくれて、これから母になろうとしている君に肝心なプロポーズをしていなかったって。クリスマスにプロポーズ、ロマンチックだろう?」
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