離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
エピローグ
年が明けて3月、東京で桜の開花が待たれる頃のある日、剣持暁斗は妻凛音と結婚式を挙げるため、会場である教会を訪れていた。
この教会はふたりの住むマンションや九王総合病院がある地域に所在する小さな教会だ。
どこで結婚式を挙げたいかと暁斗が凛音に聞いた時に、彼女が初めに思いついたのがこの場所だった。
昔この近くに住んでいた凛音は都会の森に静かに佇むこの教会の事を覚えていて、子供心に教会の持つ異国的な雰囲気に憧れていたらしい。
『中に入った事は無くて、外から眺めるだけだったんですけど、たまに外の庭で花嫁さんがいるのが見えたりして、素敵だったんです』
彼女の記憶に残る場所ならと、暁斗はここで結婚式を挙げる事にした。
『私の希望でいいんでしょうか?お付き合いでたくさんの人を呼ぶんでしたら、もっと大きい所の方が……』
そう凛音は遠慮していたが、暁斗は元から大勢の人間を呼んで大袈裟な結婚式などするつもりは無かった。
暁斗はただ彼女とふたりで式が出来ればよかった。だから今日は身内とごく親しい人間だけを呼んでいる。
「寒くないか?」