離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
 凛音がぐるぐると考えている内に、エレベーターは最上階の9階に停止していた。

(あ、7階のボタン押し忘れてた……)

 凛音は7階の外科の医局を目指すはずだったのだが、階数ボタンを押すのを忘れ、7階を通り越して食堂のある9Fに到着してしまった。
 乗ってくる人しかいないのにこのまま乗っているのも恥ずかしい。凛音は一度エレベータから降り、階段で7階まで降りる事にした。

(しっかりしなきゃ、こんな調子で仕事をミスしたら目も当てられない)

 自分を叱咤しつつトントンとリズムよく階段を下っていく。
 8階の踊り場に差し掛かったところで木製のパーテーションの向こうに白衣の長身の人物が目に入った。

「あ、剣持先生」

 凛音は立ち止まる。廊下の奥の方で距離があるが、背が高くやけに存在感があるので暁斗で間違いない。
 ちょうどいい、この封筒を直接渡してしまおうかと考える。

(医局に届けた方が良いのかな、とりあえず声だけ掛けて確認すればいいか)

 邪魔になるなら改めて医局に寄ればいいと考え凛音は暁斗を追った。

 この8階には特別個室がいくつか並んでいる。要人や芸能人などが入院することが多いので、病院内ではVIPエリアと呼ばれている。
 他の病棟階に比べて静かで落ち着いた雰囲気のため、廊下で大声で呼び止める訳にもいかない。
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