離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
 彼女は暁斗を振り向かせるために、体当たりで迫る事にしたのだろう。だから人気の無い病棟奥の特別室に暁斗を呼び出し誘い込んだのかも知れない。

 凛音から見ても魅力的で豊満な胸元に惹きつけられる男性は多いだろう。しかし、暁斗は違ったようだ。

「――仕事の邪魔をしないでくれ。時間の無駄だ。戻らせてもらう」

 こちらからははっきり表情は見えないが、北極に吹く風のように冷たい声で告げ踵を返そうとした暁斗に水上は焦ったようだ。
 ここまでしてもまったく相手にされない事が想定外だったのだろう。

「こ、この格好で助けを呼びに行きますよっ!剣持先生に乱暴されたって訴えてもいいんですか?」

(え、それはマズくない?)
 
 凛音は咄嗟にそれは駄目だと思った。若い女性が捨て身で訴えたら、彼女の言葉を信用する人間もいるかもしれない。そうなると、院長の息子とは言え暁斗の立場が非常に悪くなる。
 しかし、凛音の焦りをよそに暁斗は「したければ、そうすればいい」とバッサリだ。

(なんでそんなに余裕なのよ!)

 暁斗が追い込まれると病院にいられなくなるなど診療に影響が出るかも知れない。ひいては診察を待っている患者さんが困る事になるのだ。

(――こんなつまらないことで剣持先生をを煩わせちゃだめだ)
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