離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
凛音は扉のハンドルに手を掛け思い切りスライドさせ病室に踏み込んで水上を睨んで見せる。
「水上さん、何してるんですか?」
突然現れた凛音に驚いた水上は声を上げる。
「なっ、何よ!急に」
「すみません、剣持先生にこれをお届けに来たのですが、偶然、水上さんが自分で服を脱ぎだすのを見てしまいまして」
手に持った資料を見せながら『自分で』の所を殊更強調して言う。
「……」
水上は慌てて胸元を合わせ、凛音を睨みつけながらボタンを元通りにしていく。
「よく昼に福原先生と一緒にいる事務の子ね。福原先生を上手く利用して剣持先生に色目を使ってるっていうじゃない。こんな所まで来てあなたも剣持先生を誘うつもりだったんじゃないの?」
自分の事を棚に上げてよく言うなと思う。そして色目を使っていると思われているなんてと凛音はうんざりする。
今、凛音が働くのはもちろんお金の為だが、人の命に寄り添うこの病院の一員として働いていることに誇りも感じている。
自分の両親を亡くした経験もあり、顔見知りになった患者さんが元気になって家族と笑い合っている姿を見ると本当に嬉しいと思う。
事務を通じて少しでも患者さんの役に立ちたいと思って仕事をしている。それなのに。