離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
「剣持先生を誘おうとなんてこれっぽっちも思っていませんし、興味もありません。私はただやるべき仕事をしているだけです――水上さんもこんな事している暇があったら、患者さんの為に時間を使ったらどうですか?」

 凛音が少々強い口調で言うと正論過ぎて言い返せないのか、水上はグッと言葉に詰まる。

 暁斗に視線を移すと彼は状況を見守るように黙って凛音の方に視線をよこす。
 その余裕の態度に凛音は腹が立ってきた。そもそも自分がおかしな目で見られるのも、こうしてトラブルまがいの事が起きるのも彼がさっさと身を固めないからだ。

 仕事を邪魔されたくないなら、結婚でも何でもして落ち着いたらいいのに。

 勢いが止まらず凛音は暁斗の傍にグイッと一歩近寄る。

「剣持先生も、婚約者がいるならその方と早く結婚したらどうですか?いつまでも結婚しないから、こういう風にあらぬ期待を持たれるんです」

 背の高い暁斗を見上げ言い放つ。彼の整った目が少し見開かれた事に気づき、凛音は我に返る。

(しまった、言い過ぎた)

 結婚なんて人の自由だし、それぞれ抱える事情もあるだろう。大きなお世話過ぎる。感情にまかせて失礼極まりない事を言ってしまった。さすがに怒らせてしまったに違いない。
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