離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
「あの、すみま……」
 
 凛音はすぐに謝ろうと口を開いたのだが――思いがけない事が起きる。

「すまない。君をそんなに待たせているとは思わなかった」

 低い声と共に凛音の腰に手が回りグッと引き寄せられる。

「えっ……?」
 
 自分の腰に大きい手が添えられていることに驚きドキリと胸が跳ねる。

「凛音」
 
 暁斗は屈んで凛音の耳元で囁く。こんな声も出せるんだと思うような甘いトーンだ。

(剣持先生って私の名前知ってるんだ。あーそうか、洋一郎先生がいつも私の名前呼んでるから)
 
 混乱した凛音は思わず置かれた状況とそぐわないことを考えてしまう。

「俺もいい加減君と結婚したいと思ってたんだ。君がその気になってくれて良かったよ。ちゃんと公にして早速話を進めよう」

(剣持先生は一体何を言ってるの……?)
 これでは、凛音と暁斗が特別な関係だと言っているのに等しい。
 水上を撃退するために彼が咄嗟についた嘘なのかも知れないが、自分を巻き込まないで欲しい。

 凛音はすぐさま否定したいのに、彼の有無を言わせない雰囲気に飲まれ、言葉が出てこない。
 
 先ほどまでの勇ましさは消え失せ、黙って固まってしまう。
 彼に抱き寄せられて密着している左半身がジンジンとしてやけに熱く感じる。
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