離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
 気付くと目の前の水上も凛音同様ポカンとしていた。

「――そういうことだから」

 暁斗は水上に短く告げる。我に返った彼女はキッと凛音を睨みつけたかと思うとバタバタと病室を飛び出していった。

「……」

 静かになった病室には身を寄せ合ったままの暁斗と凛音が残された。
 
 凛音は慌てて暁斗から離れ距離を取る。まだ心拍数は落ち着かない。

「け、剣持先生、どうしちゃったんですか?」

「これで、明日には君が俺の結婚相手だという事が病院中に知れ渡るだろうな」

 暁斗はまるで他人事のような言い方をする。

「ちょっと待ってください。私が剣持先生の結婚相手なんて、そんな根も葉もないうわさが流れたらお互い大変じゃないですか!」

 自分は針の筵だし、暁斗にしても自分のような地味な事務員が相手なんて、噂が流れるだけでも心外だろう。とりあえず水上が言いふらす前に誤解を解かなければ。

 凛音が水上を追おうと病室を出ようとすると、後ろからぐいっと手首を捉まれ止められる。

「根も葉もある事にすればいい」

「え?」

 振り返る凛音に暁斗は続けた。

「俺と結婚しないか?――君にとっても悪い話じゃないはずだ」
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