離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
 それに引き換え凛音はシンプルなネイビーのワンピースにオフホワイトの薄手のカーディガンを羽織っている。お得意の面白みの無いファストファッション定番コーデだ。
 何となく身が縮こまってしまう。

「悪い、待たせた」
「い、いえ、お疲れ様です」

 凛音の向かいに座った暁斗はウェイターを呼ぶとコーヒーを注文する。
 こうしていると、まるで待ち合わせをした恋人同士に見えてしまいそうだ。彼に憧れる女性達は卒倒しそうなシチュエーションだが、凛音はさっさと用件を話して解放されたかった。

 すると、それを察したのか、暁斗が落ち着いた様子で話し出す。

「かなり噂になっているようだな。今日は大変だっただろう?」
「はい、かなり困ってます」

 あなたのせいですよという気持ちを込めて凛音は言う。

「なんでウチの病院の連中はこう噂話が好きなんだろうな。俺も今日一日で何人にも聞かれたよ『剣持先生の婚約者って医事課の米田さんなんですか?』って」
「それは、有名人の剣持先生だからだと思います」

 彼に関する噂だから電光石火で院内を駆け巡ったのだろう。凛音だけの話ならたいして興味を持たれないからこうはならなかったはずだ。

「それで、ちゃんと否定してくれましたか?」
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