離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
「単身赴任でもないのに結婚して別居していたら不自然だろう?それに君が家事一般こなせることも福原先生に聞いている。
 俺の生活は不規則だし、このままだと不健康だと自覚はしているから、食事の準備など家でのサポートもして欲しいと思っている」

 彼の落ち着いた声で淡々と、かつ具体的に説明されると凛音も冷静に考える事ができた。

「お互いのメリットを考えた一時避難的な結婚ということでしょうか。それだと、時期がきたらお別れするのが前提になりますよね」

「あぁ、離婚を前提とした契約結婚と捉えて欲しい。最低でも君の弟が卒業するまでは続けるが、離婚する時期はお互いの状況を見て決めていけばいい」

(――離婚を前提とした、契約結婚)

「確かに急な話だし、戸惑うのも理解できる。返事は今でなくても――」
「いえ、その話受けさせてください」
 
 暁斗の言葉を遮る勢いで凛音は言った。
 決心するのに時間は必要なかった。よろしくお願いします、と真剣な表情で凛音は頭を下げる。
 
 凛音は暁斗から資金提供を受ける代わりに、凛音は彼を『既婚者』にし、生活をサポートする。言わば外向きの肩書は妻だが実際は家政婦のようなもの。しかも期間限定。

 デメリットは離婚した時に戸籍にバツが一つ付く事と職場に居づらくなる事だろう。
 だが、そんな事で弟が無事医学部を卒業できるのであれば痛くも痒くも無い。

 顔を上げると暁斗と目が合う。彼は少し驚いたような顔をしていた。凛音がその場であっさり決断したことが予想外だったのかもしれない。

「昨日も思ったが、君はおとなしそうに見えて中々思い切りが良いな――それじゃあ、よろしく頼む」

 契約成立だ、と彼は力を抜いたように一瞬、表情を緩める。微かに笑ったようにも見えた。


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