離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました～契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる～

　しかし、キッチンは大いに活用させてもらう。家主にはその許可も取ってあった。

　聞くと、暁斗は夕食は外食や病院での出前ばかりで、酷い時には昼食と夕食とも取り損ねる事もあるらしい。不規則でろくな食生活では無かったようだ。それでは体力が持たない。
　たまにジムに行くらしいが、まずは食生活を改善させた方が良い。
　
　元々、世話焼き長女気質で弟の面倒を見て来た経験が染み込んでいる凛音は、妙なやる気を出していた。
　凛音はあらかじめ準備しておいた食材で、夕食を作る事にした。今まで触った事もないような最新型のキッチン機能にテンションを上げつつ、手早く仕上げていく。

　今日は油淋鶏をメインにしたものにした。油淋鶏は少量の油で揚げ焼きにして、ソースにはきゅうりを大き目のみじん切りにしたものを混ぜる凛音の母から受け継いだオリジナルのものだ。

　暁斗は基本食べれないものは無いと言っていたので、野菜も多く取り入れるように中華スープには小松菜やしめじを入れる。
　スープの火を止めたところで、ちょうど暁斗がリビングへやって来た。仕事が一段落したのだろう。

「剣持先生、夕食が出来たので、仕事の切りが良かったら食べませんか？」
　凛音はこれまたスタイリッシュなダークブラウンのダイニングテーブルに一人分だけ料理を並べる。
　わかった、ありがとうと言って、テーブルの上を見た暁斗は怪訝な顔をする。

「君は、食べないのか？」
「片づけをしてから、後で頂きます。あ、もしかして私がキッチンに居たら食べるのに落ち着かないですか？」
「いや、そんなことは無いが」
「あ、そうだ！先にお風呂の準備しておきますね。先生はゆっくり食べてください」