離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
 暁斗はゆっくり立ち上がるとデスクに置かれた小さめの箱を指先でトントンと示して言う。

「これを着けておいて欲しい」

 ウォールナットで出来た曲線的な箱の中には白い布張りがしてあってプラチナの指輪が2つ並んでいた。
 一つは波のような立体的ラインの中に小さ目のダイアモンドがいくつも並んでいるもの、対になっているもう一つは同じデザインで石が無いもの――マリッジリングだ。

「そうでしたね。用意してくれてありがとうございます」

 思い出した。指輪のサイズを聞かれて、自分の指輪のサイズなんて知らなかった凛音はショッピングモールのジュエリーショップに行って測ってもらって彼に報告していたのだ。

「既婚者とアピールするのには最適のアイテムだからな」

 暁斗は大きい方の指輪を箱から取り出すと、躊躇なく彼自身の左手の薬指に通す。

 彼の男らしくて大きな手の筋張った薬指に真新しい無機質な指輪が収まっていく様子に妙にドキドキしてしまう。

(えっと、私も自分の分、つけた方が良いんだよね)

 つい彼の手元に見とれてしまっていた凛音は我に返り、おずおずと箱に残った自分用の指輪に右手を伸ばした。
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