離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
しかし、指輪を取り出す前に左手が暁斗の左手に捉まれる。

「え?」

 暁斗は黙って指輪を取り出すとそのまま凛音の左手の薬指に通す。

 風呂上がりでまだ熱を持ったままの指先を白金のひんやりした感覚が滑り、根元に収まった。
(うぅ、これは何だかこそばゆい……)

 彼は気まぐれに付けてくれたのかも知れないが、男性に手を取られて指輪を嵌めて貰うと言うシチュエーションに凛音は思いがけずときめいてしまい、手元に視線を落としながら自分の頬が熱くなっていくのを感じた。

 その上、暁斗がじっと自分を見つめているような気がして、気恥ずかしさがどんどん増してくる。

「あの、ありがとうございます。こんな綺麗で素敵な指輪を頂いて」

 自分には不相応なほど美しく、存在感がある。もしかしたらブランドものなのかも知れない。

「必要なものだから、当然だろう?」

「……」

 二人の間に再び沈黙が落ちる。無言がいたたまれない凛音はさらに言葉を続けた。
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