離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
 職場では制服だからと気を抜くような妻ではいけなかったのもしれない。
 水上達は凛音のように地味な女が暁斗のような最上級物件を落とした事が未だに納得いかないのだろう。

「そんなだと、すぐに飽きられて捨てられちゃうわよ。ていうか、既に剣持先生は家に帰りたくないんじゃない?新婚なのに、相変わらず病院に詰めてるじゃない」

 じゃあ、私が誘惑しちゃおうかしら、などと別の看護師が笑い出す。どうやら3人とも同じタイプの人間らしい。

 既に水上さんは誘惑して失敗してますよ、と言ってやりたいが、一旦収治めて笑顔で流そうと試みる。

「皆さん早くお仕事に行かれた方が良いのではないですか?」

 取り合おうとしない凛音に気を悪くしたのか、水上達は一様に顔を顰める。

「いいわね。事務職はお気楽で。ただ患者に愛想笑いして、パソコン相手に事務処理して書類運んでればいいだけじゃない」
「そうよ。病棟看護師の現場の大変さなんて分からないわよ。剣持先生だけ働かせて自分はその内辞めるんつもりでしょ。羨ましいわ」

 きっとこれが彼女たちの本音なのかな、と凛音は思った。

 病気や命に係わる状態にある患者や家族と直接やり取りをする看護師の緊張感は相当なものだろうし、やりがいがある反面、ストレスもかなりのものなのだと思う。
 時には放り出したくなるほどに。
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