離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
 だからと言って事務職を軽く見て欲しくもないのだけど、そこはグッと堪える。

「確かに私は、現場で直接患者さんと接する看護師の皆さんの大変さはわかりません。でも、病院の職員として認識していますし、尊敬しています。患者さんはお医者様やあなた方を本当に藁にもすがる思いで頼りにしているんです」

 母が入院していた時、担当の看護師や福原からよくしてもらって救われた事を思い出し、つい熱が入ってしまう。
 そして暁斗が仕事を頑張る原動力はやはり患者や患者を支える家族の為。だから少しでも彼の役にたちたい。

「剣持もその思いに答えるために身を粉にして働いています。できれば現場ではこれからも彼の事を支えてあげてください」

 よろしくお願いしますと頭を下げる凛音に、看護師たちは戸惑った様子を見せる。

「な、何よ。わかったような口を――」

 水上がさらに言い返そうとしたのが、遮られる。

「俺も事務の大変さを知らないから『わかったような口』はきけないが」

 突然割って入った低い声に驚いて振り返ると、広い廊下の柱の後ろから出て来た暁斗が立っていた。

「け、剣持先生」
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