離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
 信じられない気持ちで凛音は着せ替え人形になり続ける。

 彼が女性の買い物に付き合って、試着を待つなんてことをするなんて夢にも思っていなかった。
 しかも彼は真剣な様子で「少し足が出過ぎだな」とか「胸元が空き過ぎだ」とチェックをしてくるでは無いか。

 そうこうしている内に、いつのまにか普段着からちょっとした外出用、食事会などの改まった場用など何着も購入することになってしまった。

 店員に『ちょうど今日のご主人のお洋服と合っていて素敵ですよ』と言われたので、その中からシックな薄手の黒いニットと秋らしいボルドー色のレーススカートに着替える事にした。靴と鞄は黒いものを持ってきていたのでそのままですんだ。

 店員にコーディネイトのアドバイスなど色々聞いている内に、支払いや荷物の配送手続きも暁斗が終えてしまっていた。

「『秋冬の服が無い』って、私の事だったんですね……」

 洋服を買うのにこんなに疲れたのは初めてだ。店を出て気が抜けた凛音はぐったりしながら暁斗に呟く。

「まあな。それに、前に言われてたろう?服装やらなんやら」
「……よく覚えてましたね」

 以前、凛音が水上達に地味と言われた事を彼は忘れていなかったらしい。
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