離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
 だから先代である祖父が病院名をつける時、剣持総合病院ではくて土地の名を冠した九王総合病院にしたらしいぞと、暁斗は冗談か本当か分からない事を言って笑う。

(……なんか、嘘みたい。暁斗さんとこうして笑っていられるなんて)

 凛音は改めて今の状況が信じられない気持ちになる。

 お互いの利害の一致で結婚し、暮らし始めた時はこんな風に穏やかに笑い合会える事があるなんて思っていなかった。まるで、自分たちが本当に仲の良い夫婦のような気がしてくる。

 暁斗も同じように思ってくれてたらいいのに、と凛音の心に温かさと切なさが同時に沸き起こった。


 ふたりは時間を掛けて食事をした後、1Fのテイクアウトコーナーでパンをいくつか購入してから店を出た。
 
 そのまま歩行者天国になっている銀座の目抜き通りを歩く。凛音が人の多さと物珍しさに目を奪われていると、左手が暁斗の右手に捉まれ、グイッと引き寄せられる。

「えっ?」
「よそ見してると危ないだろ」
「……は、はい」

 暁斗は凛音と手を繋いだまま一歩前を歩いていく。後ろからは彼の表情を確認することは出来ないが、凛音の顔は熱を持ったように赤くなってしまった。

(……手を繋いだだけなのに、どうしてこんなにドキドキしちゃうんだろう)

 彼とはキスやそれ以上の事もしている。なのに、こうして街中で手を繋ぐだけで直接お互いの心に触れているような気持ちになり、やけに恥ずかしくなってしまう。
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