離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
「……君は犬が好きなのか?」
「はい!暁斗さんは、わんちゃん好きですか?」

 思わず凛音は食い気味で答える。

「あぁ、まあ俺も昔実家でゴールデンレトリバーを飼っていたから」
「わぁ、いいなぁ!私はおばあちゃんの家で飼っていて」

 凛音は今は亡き祖母の家で飼っていた雌の柴犬の『ももちゃん』を思い出す。
 日本犬の癖にお腹をすぐに見せてしまうようなフレンドリーな性格だった。
 よく柔らかいお腹をもふもふ、ナデナデして可愛がったものだ。その経験から凛音は大の犬好きになっていた。散歩中の犬を見かけるとつい熱い視線を送ってしまう。

 実は小さい頃の夢は『ペットショップの店員さん』で、両親に『パン屋さん』じゃないのかと、笑われた事もあった。

 凛音はももちゃんの触り心地を思い出して「可愛かったなぁ」と蕩けるように表情を緩めた。想いを馳せ過ぎたのか、その表情を暁斗がジッと見ている事には気づかなかった。

 両親に犬が飼いたいと強請った事は何度もあったが、飼ってもらえなかった。パン屋が忙しかったし、小さな子供たちだけで世話をするのは難しいと思ったのだろう。
 今考えたらそれは正解だと思う。軽い気持ちで動物は買うものでは無いから――でも、と思って凛音はつい、口に出してしまった。

「このマンション、ペット可でしたよね。いつか、わんちゃんを飼えたらいいなぁ」
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