離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
「…………いや、それは難しいな」

 暫くの沈黙の後、暁斗の短い答えが返って来て凛音はハッ我に返る。
 浮かれていた心が冷や水を浴びせられたような気がして、凛音は俯く。

「ご、ごめんなさい、私」
(すごく図々しいことを暁斗さんに言ってしまった)

 この先ずっと暁斗と夫婦として暮らす前提で無意識に『犬を飼いたい』などと言ってしまった。
 最近暁斗と心が近づいた気がしていたから、大事な事を忘れかけていた。

 この結婚は離婚前提で、いつか凛音はこの家を出て行くのだ。
 動物を買うなんて出来ないに決まっている。むしろ彼は優しさでそう言わず『難しい』という言葉を使ってくれているのだ。

 考えてみたら、相変わらず夫婦の寝室は別だし、彼にとって自分は『他人』である事は変わっていないのだ。
 その現実に改めて気づかされ、胸は石が詰まったかのように重くなる。凛音は俯いたまま手元の洗濯物をさっとまとめたる。

「そんな事できるわけ無いですよね、変な事言っちゃってすみません――あ、この洗濯物片付けて、お風呂に入っちゃいますね。暁斗さんは先に寝てください」

「――凛音、」
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