離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
 ファイルを資料保管庫に運び戻って来ると既に12時を過ぎていた。凛音は博美と事務室で持参した弁当を食べる事にした。

「ねぇ、さっきニュースでやってたんだけど、結構台風の進みが速いみたい。コースも東寄りになったみたいだし、凛音ちゃん徒歩でしょう?早めに帰った方が良いわよ。それとも、剣持先生に迎えに来てもらう?」

 大きなおにぎりを頬張りながら、博美が心配気に窓の方を見る。朝は晴れていた空がどんよりと曇り、風も強まってきているようだった。

「非番でしょ?奥さんの為なら飛んでくるんじゃない?」という博美に凛音は「今日くらい家でゆっくり休んでもらおうと思ってます」と答える。
 
 昨日は迎えに行けるような事を言ってくれはいたが、今日の体調だとそれどころでは無いだろう

「剣持先生は本当に良いお嫁さんを貰ったのね。先生の事は研修医の頃から知っているけど、昔からストイックな人でね。仕事は妥協しようとはしないし、その分周りにも厳しい人だったのよ」

 まあ、今も厳しいところあるけど、と博美は笑って続ける。

「山海大の勤務で忙しいはずなのに、ウチの助っ人にもしゅっちゅう来ててね。もう少し楽にやればいいのにと思って、凛音ちゃんが入職する前、私が外科のクラークをやっていた時だったかしら、つい聞いちゃったのよ、『なんでそんなに自分を追い込んでるんですか』って」
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