離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
「……え、それすごい勇気ですね」
 
 当時の彼にそんな事を言えたなんてさすがだと、凛音は上司を尊敬の目で見つめる。

「それで、彼は何て答えたんですか?」
「『何を言われているかわからない』って」
「え?」
「正確に言うと、私がなんでそんな事聞くのかわからないってこと。剣持先生はプロとして当たり前にやっているだけだから自分を追い込んでいるとも思っていなかったのね。とんでもなく強い人だと思ったわ」
「あぁ……」

 確かに彼が言いそうな事だと凛音は思った。

「でも、剣持先生、凛音ちゃんと結婚して随分変わったと思うわ。もちろん相変わらずストイックだけど、どこか雰囲気が柔らかくなったし、周りに対して心を砕いてくれるようになった。彼の周りの職員は『剣持先生の冷たい言葉の剣で刺されなくなったのは奥さんのお陰だ』って、凛音ちゃんの事を『救いの女神』と呼んでるらしいわよ」
「それは良かったですけど、私のお陰とかでは無いと思います」

 凛音は苦笑しながら答えた。
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