離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました～契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる～

　彼が優しいのは元々だし、その優しさが今までは忙し過ぎて発揮できなかっただけだ。

　結婚を機に生活を見直し、仕事を上手く調整できるようになったから心の余裕が出て、周りに気を使えるようになったのだ。

（契約結婚をする相手が私で無くても、同じことだったんだと思う）

　博美の話にうまく合わせながら、凛音はそんな事を考えていた。


　１５時過ぎ、業者による機器設置作業は順調に進んだ。あとは正常に稼働するか確認するだけだ。
　メーカーの担当者に一通りの説明を聞き終えた凛音たちは医事課の事務室に戻った。

　窓から外を眺めると、既に雨が降り始めているた。時折強い風に煽られた雨粒が窓ガラスに叩きつけられていたる。

「……」
　その様子を黙って見ていた凛音の心がザワザワと不穏な音を立て始めた。
　さらに静かな病院に救急車の音が響く。

　救急者の音なんて、普段聞きなれているはずなのに、急激に背筋にゾクリとするような不安を覚えた凛音は思わずスマートフォンを手に取り、暁斗にコールする。

　しかし、何度鳴らしても繋がらない。コール音の回数が増えるごとに凛音の不安な気持ちもつのっていく。

「……っ」