離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
 台風が接近していたため、午前中で休講になったのだが、台風の進みが早く電車が止まってしまい、帰れなくなってしまった凛音は、交通機関が復旧するまで友人と大学で時間を潰してから帰る事にした。
 父に電話すると『わかった、お父さんは大丈夫だから、凛音は気を付けて帰るんだよ』と言ってくれた。

 ――それが、父と交わした最後の会話となった。

 夕方、自宅に戻った凛音が見つけたのは、うつ伏せに倒れている父の姿。
 凛音は慌てて救急車を呼んだが、既に手遅れだった。

 死因は心臓の大動脈解離。運ばれた九王総合病院でそう診断された。

 突然発症する病気だし、朝の不調と病気は無関係の可能性が高い。それにその場にいたとしても助けられたか分からないと福原は説明してくれたが、凛音は自分を責め続けた。

(あの時、私が大学に行かなかったら、早めに帰っていたらお父さんは助かったかも知れないのに……!)

 朝は笑っていたのに、独り薄暗い部屋で旅立たせる事になってしまった父の姿を思い出すと、今でも胸が張り裂けそうになる。

 あれ以来、台風の日や雨風の強い日、凛音は言いようのない不安に襲われるようになった。そして、そんな日は思わず遼介に連絡をしてしまう癖がついてしまった。

 その度に電話されたり、無事を確認される遼介も迷惑だろうが、彼は姉がなぜそうなるか分かっているのでいつも優しく対応してくれていた。
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