離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
 でも、今凛音の心を占めているのは暁斗の無事を確かめたいと言う気持ちだけだった。
 
 彼が父と同じようになってしまったらどうしよう――どうしても父が倒れていた姿が脳裏に浮かんできてしまう。

 そんなことがあるはずがない、と考えようとしても、過去の記憶が凛音の不安を揺さぶってくる。
 とにかく彼が無事でいる事を確認したい。それだけでいい。
 凛音はいつしかずぶ濡れになりながら走っていた。

「凛音っ!!」

 息を乱しながらマンションに着き、エントランスの自動ドアがから中に入ろうとすると、慌てた表情をした暁斗がこちらに向かって走ってくる姿が見えた。

(……暁斗さん?)

 彼の姿を確認した凛音は、途端に気が抜けたように動けなくなる。

「大丈夫かっ!?」

 暁斗は普段の冷静さをどこかに忘れてしまったかのように慌てた様子で立ちすくむ凛音に駆け寄ると全身を確認する。

「どこも怪我は無いか?こんなにずぶ濡れになって……あぁ、こんなに冷えているじゃないか」
 凛音の頬を手で包むと更に顔を覗き込んで、瞼の血色まで確認してくる。
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