離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
 暁斗は凛音を抱く腕に力を込めて抱き寄せると耳元で言う。

「でも、俺は、いなくなったりしない。ずっと凛音の傍にいる」

 彼は濡れるのも構わず、凛音の全身をきつく抱きしめ、時折背中を擦ってくれる。

「あきと、さん……」
「だから、安心していい」
「……」

 彼に安心していいと言われると、魔法のように心が落ち着いてくる。ずぶ濡れの冷えた身体を抱きしめられ、彼の心音を聞いていると心ごと守られ、温められているような感覚がした。
 
 凛音は涙を零しながら彼の胸に甘えるように顔を付け埋めると、背中に手を回し、力を込めるた。
 
 人目も気にせず暫くふたりは抱きしめ合っていた。



 部屋に戻ると、暁斗はすぐに風呂を沸かし、ゆっくり入って来いと言って凛音をバスルームに放り込んだ。
 凛音は言われたように十分に温まってから風呂を出て、部屋着に着替える。洗面室の鏡で自分の顔を見ると、まだ目元が赤いままだ。

 久しぶりに感情的になって、大泣きしてしまった。あんなに泣いたのは母が生きていた時にも無かったかもしれない。
< 94 / 170 >

この作品をシェア

pagetop