離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
(暁斗さんにかなり恥ずかしいところを見せちゃった……でも、泣いたらすっきりした気がする)

 母の代わりに米田家を支え、父が亡くなった後は父の代わりに遼介を立派な医者にしようと頑張って来た。それが自分の生きる理由だったし、後悔はしていない。

 でも、誰にも甘えてはいけないと、張りつめさせていた自分の心の糸は、知らない内に限界を超えそうになっていたのかもしれない。完全に切れる前に暁斗がそっと緩ませてくれた気がした。

 外は暗く、未だに雨風が強いままだ。でも、もう凛音は不安な気持ちにはならなかった。

 リビングのソファーでぼんやりしていると、凛音の後ろに風呂を済ませた暁斗がドライヤーを片手にやって来る。

「すぐに髪を乾かさないと風邪を引くぞ」
「あ、そうですね」

 凛音がドライヤーを受け取ろうとすると、彼は黙ってプラグをコンセントに差し、ソファーの後ろに立って凛音の髪の毛を乾かし始めた。

「……」

(暁斗さんの手、気持ちいい……)

 大人になってから美容院以外でこんな事をしてもらうのは初めてだ。もちろん暁斗にしてもらうのも。
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