離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
 本当なら恥ずかしいし申し訳ないのだが、凛音は髪をすいてくれる優しい手つきについウットリと身を任せてしまう。

 暁斗は温風が凛音に近づき過ぎないように気遣いながらを髪を掬い上げ、さらさらと流しながら風を当てる。
 時折彼の堅い指先が凛音の地肌を沿うようにあたり、それも心地よい。凛音はあまりの気持ちよさに目を細めた。

 ずっとして欲しかったくらいなのに、器用な彼によってあっという間に髪は乾いてしまった。

「……あ」

 ドライヤーの音が止まり、部屋が静かになる。思わずがっかりした声が出てしまい、恥ずかしくなる。

「ありがとうございました。暁斗さんも乾かしますか?」

 少し照れながら振り返り、背後の暁斗の顔を見上げた瞬間、凛音は息を飲む。彼の黒曜石のような瞳が熱を持って凛音を射抜いていたのだ。

 髪の毛を乾かしながら彼はずっとこの目で自分を見ていたのだろうか――そう思うと凛音の体の芯が熱を帯び始める。

「いや、俺はいい……それより」

 今からもっと君に触れていいか?と彼は言った。
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