離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
 暁斗に連れて来られたのは彼の部屋だった。凛音はベッドの上にそっと横たえられる。

 この部屋のベッドで彼に組み敷かれるのは『初夜』以来だが、彼の瞳はあの時と同じように熱を湛えて見える。

 今まで何回も彼とはこういう事をしてきたが、凛音は今夜は特別だと思った。

 ――それは、好きな相手に抱かれるからだ。

 今日凛音は、マンションのロビーで彼に抱きしめられながらはっきりと想いを自覚した。

 結婚の切掛けはお互いのメリットの為、割り切った契約結婚のはずだった。

 最初は冷たい人だと思っていたのに、一緒に暮らすうちに彼の不器用な優しさや、根底に流れる温かさに気付き、自然と惹かれてしまった。

 いつしか誰よりも大切な人になっていたのだ。だから今日風雨で不安に襲われた時、取り乱してしまうほど彼を失いたく無いと思った。

(私、暁斗さんの事が好き……好きになってしまった)

 凛音が暁斗を見つめると、彼も凛音を見つめ返しながら頬を撫でてくる。

 やがて上半身を屈めると暁斗は唇をそっと重ねてきた。労わるようなキスは次第に熱を帯び、激しいものに変わっていく。

「ん……はっ、あ……」

 凛音が懸命にキスに答えようと夢中になっていると、彼も息を乱しながら、大きな掌で彼女の身体のラインを確認するように部屋着の上から満遍なくなぞる。
 しばらくそうした後、身に着けていたものの全てを取り去ると今度は直接指や唇で知り抜いた妻の身体を弄っていく。

 凛音はまだ湿り気の残る彼の前髪を胸元に感じながら夫の頭を抱きしめる。

「暁斗さ、ん……っ」
「凛音、君は、本当に可愛いな――でもこうしたら、もっと可愛くなる」
「あっ……」
「もっと俺に委ねて、乱れて、可愛くなればいい」

 彼の掠れた声が凛音の耳に甘く注がれる。身体中に口づけをされ、高められ、蕩け切った凛音はゆっくり彼を受け入れた。

「――凛音っ」

 それまでの優しさも、余裕もかなぐり捨てた暁斗に激しく揺さぶられる。
 自分の名前を呼びながら彼が中で果てた時、この人を愛してる、いつか別れる時が来ても、こんなに人を愛することが出来た自分は幸せだと凛音は心から思った。

< 97 / 170 >

この作品をシェア

pagetop