離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
(神と言うより悪魔だけどな)

 小さな玉子焼きを口に運びながら、暁斗は心の中で毒ついた。
 九王総合病院は外科全般、特に循環器外科ではで全国的に有名だ。その外科部長である福原洋一郎。彼は保育園の園長のように人当たりがよく、優しい人格者と言われているが、裏の顔は違う。

 実際優秀な医師で、患者には誠実なのだが、福原は院内外の裏情報や個人情報に通じていて、かなりあくどい事もやるし、病院に悪影響を及ぼすような人間は秘密裏に排除してしまう。
 そうでもなければ、この若さで病院の要職を任されるまではならないだろう。
 院長である暁斗の父に気に入られている一方、病院内のかなりの人間は福原に弱みを握られている。
 人畜無害の笑顔の裏で何を考えているか分からない――あまり敵に回したくないタイプの人間だ。だから暁斗も警戒しつつ上手くあしらって来たつもりだった。

『僕の遠い親戚の子がさぁ、可愛いんだけど、色々苦労してるんだよ。あ、医事課にいるんだけどね。名前は――』

 去年暁斗が九王に戻って来ると、福原は聞いてもいないのに事ある毎に可愛がっている『はとこの娘』の生い立ちや境遇を暁斗に吹き込んできた。
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