三次元はお断り!~推しが隣に住んでいまして~
それは、あの騒動の時に、姉から言われた一言だ。
(いないでしょ。理解なんてね、そんな簡単にできるもんじゃないのよ。自分のことだって解らないこともあるんだから。もしできてたら、心理カウンセラーだの占いだのが商売としてやってける訳ないじゃん)
姉はよくも悪くも、きっぱりと竹を割ったような性格で。
(だから、理解しよう、されようだなんて思い上がりもいいとこだっつーの。特にあたしだのあんたみたいな性格の人間にはね。解ろう、和買って貰おうだなんて思うな。そのために言葉があるんだし、伝える努力をするんだよ)
出来る事と出来ない事の見切りがはっきりしていた。
(努力しても、解らんもんは解らんのよ。だったら解らなくてもいいから、認めて尊重して寄り添いな。自分には解らんけどそうなんだね、って受け入れるんだ。あたしらにできることなんて、それくらいしかないんだよ)
姉の言葉に、吹っ切れた部分も多い。
だから。
(どんな子だろうって、ずっと思ってたけど)
あの手紙をくれた『スズちゃん』のことを、自分なりに想像もしていた。やさしい子。彼女の友達は、きっといつもあんなふうに彼女に想われて生きている。それが羨ましいとさえ思った。
(……想像以上だった)
改めて出会った「鈴ちゃん」は、明るくて、ちょっと……いや、だいぶお人好しで、やさしい女の子、で。
無防備で、押しに弱くて、……とても可愛い、好きにならずにはいられないような女の子だった。
だけど、だから、彼女を知りたいとは思うけど、理解しようとは思わない。
ただ、尊重する。彼女を、彼女の好きなものを、嫌いなものを、苦手なことを、その生活を。
そうしてこのままそっと、彼女に寄り添うようにして暮らしていけたら、と思う。
一番近くで。
(……でないと、ちょっと心配だし)
あんまりにも無防備過ぎる。
マンションの共用廊下に座り込んでいたような男を、簡単に信じてあんな深夜に家に入れるなんて。
それは確かに姉と話しはしたし、本人だと確認は取れただろうが、だからといって自分が紳士的に振る舞わなかったらどうするつもりだったのだろう。
危ういけど良い子だな、かわいい子だな……と思っていたところにあの『スズちゃん』だったことが解って、実際のところ、すぐにでも抱き締めてしまいたかったんだ、こっちは。
そうして。
(……怖がらせないようにしないと)
一度抱き締めたら、その先を焦らない自信がまったくない。
「難しいな……」
彼女は自分の、「小高ルイ」のファンだ。
でも、だからといって、恋愛対象になっているかといえばそうではない、ように思える。
……あまり男性との接点がない女性なのだという。慣れていないと。だったら、性急に押して嫌われたり、怖がられたりはしたくない。
少しずつ。
彼女の毎日の中に、じわりと染みこむように自分の存在が入っていって。
そこにいるのが当然、というふうに、なっていければいいのだけど……。
「あ」
考えながら口を動かしているうちに、コーヒーもマフィンもすっかり食べ終えてしまった。
「美味しかったな」
三種類のマフィンはどれもおいしかったし、寝起きの腹をしっかりと満たしてくれた。
食べたものが自分を作る、というなら、きっとすぐに、自分の全身は彼女の作ったもので満たされるのだろう。
心と同じに。
「……ハハ」
それが嬉しかったし、自分も彼女の内側を何かで満たしてしまいたい、と思う。
他のものが入る余地などないくらいに、いっぱいに。
「お昼も楽しみだな」
真ん中からきれいに切られたおにぎりのサンドイッチは、鮮やかなレタスや黄色味も鮮やかな目玉焼き、焦げ目のついたスパムが見える。見るからにおいしそうで、正直、このまま食べてしまいたい気持ちになった。
でも。
「待った方が、多分、おいしい」
だからゆっくり、焦らずにじっくりと。
―――待つのは得意だからね。
薄く笑って、累は静かにテーブルを離れた。
(いないでしょ。理解なんてね、そんな簡単にできるもんじゃないのよ。自分のことだって解らないこともあるんだから。もしできてたら、心理カウンセラーだの占いだのが商売としてやってける訳ないじゃん)
姉はよくも悪くも、きっぱりと竹を割ったような性格で。
(だから、理解しよう、されようだなんて思い上がりもいいとこだっつーの。特にあたしだのあんたみたいな性格の人間にはね。解ろう、和買って貰おうだなんて思うな。そのために言葉があるんだし、伝える努力をするんだよ)
出来る事と出来ない事の見切りがはっきりしていた。
(努力しても、解らんもんは解らんのよ。だったら解らなくてもいいから、認めて尊重して寄り添いな。自分には解らんけどそうなんだね、って受け入れるんだ。あたしらにできることなんて、それくらいしかないんだよ)
姉の言葉に、吹っ切れた部分も多い。
だから。
(どんな子だろうって、ずっと思ってたけど)
あの手紙をくれた『スズちゃん』のことを、自分なりに想像もしていた。やさしい子。彼女の友達は、きっといつもあんなふうに彼女に想われて生きている。それが羨ましいとさえ思った。
(……想像以上だった)
改めて出会った「鈴ちゃん」は、明るくて、ちょっと……いや、だいぶお人好しで、やさしい女の子、で。
無防備で、押しに弱くて、……とても可愛い、好きにならずにはいられないような女の子だった。
だけど、だから、彼女を知りたいとは思うけど、理解しようとは思わない。
ただ、尊重する。彼女を、彼女の好きなものを、嫌いなものを、苦手なことを、その生活を。
そうしてこのままそっと、彼女に寄り添うようにして暮らしていけたら、と思う。
一番近くで。
(……でないと、ちょっと心配だし)
あんまりにも無防備過ぎる。
マンションの共用廊下に座り込んでいたような男を、簡単に信じてあんな深夜に家に入れるなんて。
それは確かに姉と話しはしたし、本人だと確認は取れただろうが、だからといって自分が紳士的に振る舞わなかったらどうするつもりだったのだろう。
危ういけど良い子だな、かわいい子だな……と思っていたところにあの『スズちゃん』だったことが解って、実際のところ、すぐにでも抱き締めてしまいたかったんだ、こっちは。
そうして。
(……怖がらせないようにしないと)
一度抱き締めたら、その先を焦らない自信がまったくない。
「難しいな……」
彼女は自分の、「小高ルイ」のファンだ。
でも、だからといって、恋愛対象になっているかといえばそうではない、ように思える。
……あまり男性との接点がない女性なのだという。慣れていないと。だったら、性急に押して嫌われたり、怖がられたりはしたくない。
少しずつ。
彼女の毎日の中に、じわりと染みこむように自分の存在が入っていって。
そこにいるのが当然、というふうに、なっていければいいのだけど……。
「あ」
考えながら口を動かしているうちに、コーヒーもマフィンもすっかり食べ終えてしまった。
「美味しかったな」
三種類のマフィンはどれもおいしかったし、寝起きの腹をしっかりと満たしてくれた。
食べたものが自分を作る、というなら、きっとすぐに、自分の全身は彼女の作ったもので満たされるのだろう。
心と同じに。
「……ハハ」
それが嬉しかったし、自分も彼女の内側を何かで満たしてしまいたい、と思う。
他のものが入る余地などないくらいに、いっぱいに。
「お昼も楽しみだな」
真ん中からきれいに切られたおにぎりのサンドイッチは、鮮やかなレタスや黄色味も鮮やかな目玉焼き、焦げ目のついたスパムが見える。見るからにおいしそうで、正直、このまま食べてしまいたい気持ちになった。
でも。
「待った方が、多分、おいしい」
だからゆっくり、焦らずにじっくりと。
―――待つのは得意だからね。
薄く笑って、累は静かにテーブルを離れた。