クローバー
大分ハチマキもとったし大丈夫だとは思うけど、あの郷田さんに捕まるのは面倒だ。何よりあの女が喜ぶ顔を見たくない。絶対に嫌だ。
行きたくない。行きたくないけど …
私がこの学校で道に迷わず行けて、絶対にあの郷田さんから見つからない場所は1つしかないんだよなー。
しょうがないと渋々そこへ向かう。
久しぶりに来た旧校舎は相変わらず床がギシギシと鳴り薄気味が悪い。
万が一郷田さん達が来てもすぐに見つからないよう少しずつ奥へと進んでいく。
え?なんかここ前より暗くなってない?!
それに前より空気が悪い気がする?!
ゆっくりゆっくりと進んでいくと私しかいないと思っていた校舎から声が聞こえてきた。
岡山達が薬を隠していた教室からだ。私は気配を消し中の様子を伺う。
「どうしてだよ!!この間と言ってることが違うじゃないか!!」
「悪いな。上からの命令なんだ。」
中では岡山と松坂の2人と黒いスキニーに、黒いパーカー、フードを被った男が揉めていた。顔はフードとマスクでよく見えない。
誰だあの男。
密売人という言葉が頭を掠めるが、2人が取引を行う日付までまだ1週間はある。
何故2人が今日ここに?
私はLimeで急いで隆二さんに連絡する。
ガシャンッ!!
何かが割れる音が響いた。
急いで中の様子を確認する。
ドロッ
岡山の腕に赤が伝う。
岡山は切れた手の痛みなど関係ないと言わんばかりに強くガラスの破片を握りしめている。
周りには窓ガラスの破片が飛び散り、松坂が岡山を怯えたように見ていた。
「殺してやる!!薬をくれないなら殺してやる!!!」
「お、落ち着けよ岡山。何も殺さなくても」
「うるさい!うるさい!!」
岡山が振り上げた腕が松阪の頬を掠め、松坂の頬からたらりと血が落ちていく。
「あっ、あっ、血がっっ。」
松坂は痛い痛いと泣きながら頬を抑えてその場でうずくまる。
あまりいい状況じゃないな。
岡山の目が狂気に満ちて黒くドロドロと濁っている。あいつはそこまで薬に堕ちていたのか。たくっ、なにも体育祭の日に飲むなよな。
隆二さんから返ってきたLimeは俺が行くまで待てだったが、どうやらそこまで待っていたら岡山が本当に人を殺してしまいそうだ。
私はいつでも止められるよう突入する準備をする。
あの男、さっきから岡山を前にしても不気味な程に動かない。少しは同様してもいいはずなのに、1ミリ足りとも微動だにしていない。慣れているのか?