クローバー
「いいや、皆が皆そんな事できる訳が無い。ましてや、薬をやってる人間に挑むなんて相当勇気がいることだ。それでも、松坂は岡山を止めた。岡山を殺人犯にしないために。松坂は強いね。」
「僕が…強い?」
「あぁお前は強いよ。」
「でも…でも…僕はあの中を通り抜けるのが怖い。死ぬのが怖い臆病ものなんだっ!」
「死ぬのが怖い?そんなの生きてる限りあたりまえ。それに炎を前にしたら皆臆病になるものだよ。でもね、松坂…」
伝われ。
私はお前に生きてて欲しいんだ。
「今、お前救えるのはおまえしか居ないんだよ。」
松坂の瞳がじっと私を見つめる。最後の涙が瞳から一筋流れた気がした。
「松坂が自分自身を信じて守ってあげるしか、この恐怖は終わらないよ。松坂、私と一緒に松坂を守ろう。」
私は立ち上がり、松坂に手を差し出す。
どうかこの手を握って欲しい。こうしている間にも火は着々と広がっている。
松坂…覚悟を決めてくれ。
どのくらいの時間だったのだろう。実際は十秒にも満たなかったのかもしれない。
でも私にとってその時間はすごく長く感じた。
松坂は暫く私の手をじっと見つめていたかと思うと、覚悟を決めたように震えながらもしっかりと私の手を握った。
「よしッ!!行こう!」
その手を勢いよく引き上げる。
「松坂!私が合図したらあそこを思いっきり走り抜けろ。何が起きても外に出るまでは絶対に止まらないで。できるね?」
松坂は強い目をしてコクリと頷いた。
私も再び岡山を背負いなおし、走り始める体勢を作る。