クローバー
とぼとぼと自分の影を見ながら歩く。
情けないな俺。どうせ皆俺を裏切る。分かってた事だろ?
それなのに、まだあいつの事を信じたいと思うのは何故だろうか。
家に着き、リビングから漂ってくる匂いに誘われるように扉を開けた。
瑠衣が誰かと一緒にいるなんて珍しいな。
今…女の顔は見たくない…
笑顔の皮を無理やり被り、優しくて、紳士な僕を作りあげる。
どうして、家に帰ってまでこんな疲れる事しなきゃならないのか。ため息が出そうになるのをぐっと耐える。
ぐだぐだ手当していると、
「貸して下さい」
女にしては低く、綺麗な声が響いた。
手慣れてる。
そのテキパキとした動きに見とれていると
いつの間にか終わっていた。
何がしたいんだ?俺に恩を売ったつもり?
女は俺が想像もしてない言葉を言い放った
「不細工ですね」
は?今何て言ったこの女?
今まで散々イケメン、イケメンと言われてきた俺が不細工?有り得ない。
女はさも分かったかのように俺に淡々という。それにとても腹が立った。お前なんかに俺の何がわかるの?ただ、のうのうと生きて来たお前に!!!
流星から裏切られた怒りもあったかもしれない。俺は女に当たるように怒鳴りつけた。
この女は俺の本音を知ってどんな顔をするのだろうか。泣く?逃げる?
あーあ。この家にも居ずらくなる。
女の手が俺の頬にあたり、思わず顔をあげる
女の顔は、怯える顔でも、泣き顔でもなくただ凛とした瞳でこっちを見ていた。
その雰囲気が出会った頃の流星と重なって
胸がキュッとなる音が聞こえる。
なぁ、流星。お前に埋めてもらった心の穴はお前に寄ってまたポッカリ空いてしまった。
でも、そのおかげで俺は見つけられたかもしれない。もう1つの居場所を
胸の苦しみが全て取れる訳じゃない。
それでも、文のくれた言葉、文と居ることで俺の胸の穴は少しずつ埋まって行く気がした。
その後、3人で食べたご飯。
食べられなくはなかった。
これから食べてあげてもいい。そう思えるくらいには美味しかった。
瑠衣が毎日一緒に食べてる事には腹がたったけど、これからは毎日俺もいるし。
あんな甘い雰囲気。絶対ぶち壊す。