クローバー
それでも、あの子は丸くなった方だ。
俺が拾った頃はまだ、誰にでも威嚇しまくり、誰にでも牙を剥く。
どこまでも深い真っ黒な瞳が、夜の闇の中じゃとても不気味で何を考えているか分からず、いつの間にかあの子は "クロ" そう呼ばれる存在になっていた。
あの子は強く見えるようで弱い。心がね。
だから、誰にでも牙を剥く。あの子は怖がりだから。その方法でしか自分自身を守れなかったんだ。
『お前っ!誰だよっ!!』
『そうだなー?君の飼い主になる男だよ』
『私は、犬でもっ、怪物でもないっ!!』
『そうだね、君は人間だ。でもね、今のままじゃ、君は世間から犬以下の目で見られてしまう。それでは、君の守りたいものは守れないよ。』
体に力を入れ、今にも噛み付いて来そうな少女。それでも、目は怯えている。
『っっっ!私はっ…。私はっ…。守れなかった。あいつをっ…。なにも出来なかったっ!気づいてあげられなかったっ!近くにいたのにっ!!!』
『君はどうする?』
『強くなりたいっ!!もう誰も失わないために!守れるようにっ!』
瞳の奥に怯えは見えるものの、強い意志を宿している。
この子は…
『…。いい目だ文乃。強くなれ。身体だけじゃなく、心も。』