クローバー
『いいか?まだ目を開けるなよ?』
そう言うとそいつは私の顔から手を離す。
私はぎゅっと目をつぶったまま、音だけに集中する。
ガシャン!ガシャン!
何この音。一体何を買ってきたんだ?どんなものなのかという不安と同時に少しワクワクする気持ちが私を支配する。
『いいぞ!目を開けて。』
暗闇に包まれていた瞳が外の空気に触れる。目の前が綺麗な赤で埋まっていく。
あいつを思わせるような綺麗な赤に目が奪われる。じっとそのバイクを見つめる。
綺麗.......
『どうだ?俺が選んだバイクは。この綺麗な赤が決め手だ。椿のように繊細で綺麗な赤だろ。』
『なんで.......バイクなんて.......。』
そいつはバイクを優しく撫でながら私を見る。
『それは.......』
『それは?』
『見た瞬間これだっ!と思ったからだ!』
『は?』
思わずコケそうになる。
『それだけ?!それだけで買ってきていいものなの?!』
『まー、細かい事は気にするな。』
いや、気にするよ!!絶対高いでしょこれ?!
『いいか、文乃。今日からこいつはお前の相棒だ。』
『私の相棒はお前だろ?』
そいつは私の言葉に目を驚いたように目を見開く。
そんなに驚くことか?私だってお前を大切に思ってる。拗ねたような照れてような顔をする私の頭をガシガシ撫でる。
『ちょっ、何すんの!』
『そうだな。お前の相棒は俺だな。当たり前だ。』
嬉しそうに目を細め笑うそいつ。何がそんなに嬉しいんだか。
でもなんだかその笑顔を見ると私の心がくすぐったくて、自然と口の端が上がる。
『じゃあ、こいつはお前の第2の相棒だ。こいつはな乗れば乗るほどお前を楽しい場所へと連れて行ってくれる。そして、嬉しいと喜ぶぞ。だから、沢山乗って沢山こいつの事を知っていけ。』
なんだよそれ。
ほんと勝手だな。
でも.......
『よろしくな、相棒。』