背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
目の前にいるなんて、こうして先輩とまた話が出来るなんて信じられない……。嬉しいのに言葉にならない。
「で、来週誕生日を迎える千葉くんに、調理部ホープの一花ちゃん手作りのマフィンを食べさせてあげようじゃないか。ねっ? 一花ちゃん」
一花の様子を見ていた部長がニヤニヤしながら言うが、一花は突然のことに驚きが隠せない。
「……なんか困ってるけど?」
「そ、そんなことないです! 先輩さえ良ければ……食べていただきたいです……」
誤解されちゃう……そう思って慌てて訂正する。
尚政は驚いたように一花を見た後、急に笑い出す。
「二人の言うこと、わかる気がする」
「でしょ?」
尚政は一花の方に向き直る。
「じゃあお言葉に甘えて、いただいてもいいかな?」
一花は何度も頷いてから、マフィンを皿に載せて尚政に差し出す。
「ど、どうぞ……。お口に合うといいのですが……」
「ありがとう。じゃあいただきます」
尚政は一口食べて、驚いたように微笑む。
「すごく美味しいよ。一花ちゃん、本当に上手なんだねぇ」
「そ、そんな!」
「千葉さ、何か食べたいのあったらリクエストしてみれば? 一花ちゃん、結構なんでも作れるよ」
一花が目を見開いて部長を見ると、彼は悪戯っぽい笑みを向ける。
そこでようやく、二人が一花のために話をしてくれている事に気付く。
「あっ、じゃああれ食べたいな。生チョコ。好きなんだよね。一花ちゃん、作れる?」
「はいっ、生チョコなら何回か作ったことあるので大丈夫です!」
「じゃあ今度食べさせてよ」
「ぜ、是非!」
一花がこれ以上ないくらいの笑顔で答えたため、尚政は二人がここに自身を呼んだ意図がわかったような気がした。
当の一花はそのことには気づかず、ただ二人のおかげで、尚政との繋がりが出来たことを喜んでいた。