背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
すると尚政が一花の肩に手をのせる。
「俺に彼女がいるって言いふらしたのはお前だろ」
「一花ちゃんのために、お前に変な虫がつかないようにしようとしたんだよ〜」
「俺のどこを見たら虫がつくようにみえるんだよ」
「……顔?」
柴田と園部が同時に言ったので、尚政は深いため息をつく。
「でも今学内を見て回ってたんだけど、ちょっと雲行きの悪そうな輩もいたから気をつけろよ。特に一花ちゃんを一人にしないようにな」
「……やっぱり先輩ってモテるんですか?」
一花が元気なく呟く。その様子に気付いた園部が、にっこり笑って付け加えた。
「附属組は眼中にないけど、大学から入学した女子にはね。事情を知らないから、結構グイグイいく子もいるけどさ、千葉は一花ちゃん一筋だから全然相手にしてないし。だから安心して大丈夫だよ」
園部は笑顔で一花の頭を撫でる。中学の時からこの温かい包容力のある笑顔に助けられた。今もあの頃のような安心感に包まれる。
「一花ちゃんってば本当にかわいいんだから……。ねぇ千葉、今日このままここに一花ちゃん置いていかない?」
「いくわけないだろ。じゃあ一花、そろそろ行こうか?」
問いかけた尚政に、一花は頷く。
「本当に千葉は一花ちゃんにデレデレだからなぁ。諦めろ、園部」
「あのっ、副部長! また会いに来てもいいですか? というか連絡先交換したいです!」
「当たり前じゃない! 大歓迎だよ〜!」
再び抱きつこうとする園部を引き剥がし、尚政は一花の手を取る。
「じゃあ俺経由で伝えるから」
「千葉め……一花ちゃんを独り占めしやがって……」
「当たり前だろ。こっちはデート中なんだよ」
「千葉、一応気をつけろよ」
「了解」
「部長! 副部長! ありがとうございました!」
二人に見送られながら、一花は尚政に手を引かれて人混みの中を進んで行く。
美味しそうな匂いのする店には珍しい目もくれず、真っ直ぐ歩いて辿り着いたのは、グラウンドそばのベンチだった。
尚政が先に座り、一花も隣に腰掛けた。先ほどまでの喧騒が嘘のように、ほとんど人の姿は見られず、静かな時が流れている。
一花は空を見上げて、大きく息を吸い込んだ。実は園部の言葉が引っかかっていたが、そのことを口に出せずにいたのだ。
私が知らない先輩の世界があるのは当たり前なのに、こんな風に嫉妬してしまう自分が嫌になる。