背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
 ベンチに座ってから、一花の様子がおかしい。黙ったまま空を見上げている。

 心当たりがあり過ぎる。特に柴田と園部との会話の所々で、一花が何度か反応を示す場面が見られたのだ。

「何考えてるの?」

 尚政が尋ねると、一花はしばらく黙ってから、重たい口を開いた。

「……ヤキモチというか……ちょっと悔しいなって思っちゃって……。私だけの先輩って勝手に思ってたのが恥ずかしい……」

 一花は両手で顔を覆うと下を向いてしまった。それを見て尚政は少しだけ幸せな気分になる。自分のためにヤキモチを焼く一花がかわいく見えた。

「……前に言ったよね。俺は彼女を作る気はない。ただその可能性があるなら、それは一花だって。その気持ちは今も変わってない。まぁそれなのにこんな曖昧な状態にしてる俺が言うのもおかしいけどさ、俺が心を許しているのは一花だけだよ。だからもっと自信持ってよ。今だって、どうしてここに来たかわかる?」

 首を横に振る一花の耳元で、尚政はそっと囁く。

「一花が柴田や園部に会いたいだろうなって思ったから行ったけど、やっぱり二人きりになりたかった」

 その言葉を聞いて、一花は嬉しそうに顔を赤く染める。

「さっき同じ学部の奴に、彼女はどこの大学なんだって聞かれたから内緒って言ったんだ。一花、女子大生に見えるってさ。俺たちちゃんと釣り合ってるってことじゃない?」
「……先輩ってすごい。私が欲しい言葉をちゃんとくれるんだもん」

 尚政は驚く。今まで一花の方が俺の欲しい言葉をくれていた。それが嬉しかったんだ。でももし俺も一花に同じ気持ちを返せたのなら、それが一花のこの笑顔に繋がっているのなら、俺自身も一花に肯定されたような気持ちになった。

 一花が肩に寄りかかると、尚政はその肩にそっと手を乗せた。

 与えられる愛情は自分が満たされる。でも与える愛情にこんなに満たされるとは思わなかった。
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