背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜

* * * *

 いつものようなデート。だけど一花は不安になった。

 なんだかいつも以上に先輩が優しい気がする。それに時々悲しそうな顔をする。まるで今日が最後の日みたいに何度も手を握ってくる。

 こういう表情、前にもあったからわかるの。確か篠田くんが先輩に会いに行った日。辛そうなのに、精一杯の笑顔を作っていた。

 何かあったんだと察する。また先輩は私を拒絶するつもりなのだろうか。もしそうなら、それが"仕方なく"なのか"本心"なのか、見極める必要があった。

 下町をぶらぶらしながら、静かな神社の境内へと入っていく。お参りを済ませ、大きな池の(ほと)りを歩くが、尚政は黙ったまま心ここに在らずという様子だ。

 一花は立ち止まり、尚政の服の裾を引っ張った。それに気付き、尚政は一花の方を振り返る。

「どうしたの?」
「それは私のセリフだよ。先輩、何かあったの? なんか今日の先輩いつもと違う」

 一花が言うと、尚政は顔を強張らせる。そして下を向いた。

「……この間、就職が決まった会社から電話が来たんだ……関東支社じゃなくて、北海道の本社に勤務して欲しいって」
「北海道……」
「急だよね。もしかしたらもうこっちに戻れないかもしれない」

 一花は言葉を失い、固まってしまう。

 尚政自身、一花にどう伝えるかいろいろ考えた。でもはっきりと決まらないまま今日を迎えてしまったのだ。
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