背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
言葉を選んでいる尚政の顔を、一花は両手で挟むと自分の方へ向ける。
「ちゃんと私の顔を見て。先輩は今日、私に何を言おうとしたの? もう終わりにしようとした? それともこのままって思った?」
図星だったのか、尚政は泣きそうな顔になると視線を逸らす。
「……一花はどうしたい?」
その言葉を聞いた一花は目を見張った。《《あの》》先輩が、私がどうしたいか聞いているなんて信じられなかった。拒絶されるのが怖くて、いつも自ら距離を置こうとする先輩が、私の想いに合わせようとしているなんて。
一花は以前のことを思い返す。前に篠田くんのことがあった時、一方的に自分の意見を告げて去ってしまった。その時に比べたらとても大きな変化だった。ちょっとしたことかもしれないけれど、着実に前に進んでいると思える。
「私はね、先輩との関係を続けたいって思ってるよ」
尚政は一花の言葉を聞くと、頬を赤らめ彼女をみつめる。
そんな顔をするくらいならはっきり言えばいいのにね……そう思うけど、それが簡単に言えたらこんな関係にはなっていないはず。
「先輩が同じ気持ちなら嬉しいんだけどな」
まるでその言葉を待っていたかのように、尚政は一花を思い切り抱きしめた。
「俺は……一花とこのままの関係でいたい……でもそんな勝手なこと言えないし……」
「同じ気持ちなら、勝手じゃないよ。私は大丈夫。離れてるのには慣れてるし。それに短大は忙しいから、きっと寂しいのも吹っ飛んじゃうよ」
私は少しでも先輩を変えられた? そうであればこんなに幸せなことはない。
「でもこれからも毎日の連絡は欠かさないでね」
「もちろん」
「ほかに言うことはない?」
一花は確認のためそう言った。もうこれ以上心配事は増やしたくなかったのだ。
「うん、大丈夫。もうない」
「……先輩ってば、本当に私のこと大好きよね」
「うん……本当にね」
尚政は一花の額に口づける。
「……神様の前だし、今はこれだけ……」
一花は微笑むと、尚政を抱き返す。キスしてなんて言ってないのに、先輩からキスしてるって気付いてる? 付き合っているようなものなのに、関係に名前がないだけで、一つ一つが複雑になっている気がする。
「仕方ない。後でいっぱいしてもらおうかな」
離れていても大丈夫。だってこんなに面倒くさい先輩が大好きで仕方ないんだもの。そんな部分でさえかわいいって思えるの。私の瞳はどうやったって先輩しか見えないみたい。