背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
 智絵里に一体何があったのだろう。先輩のことを聞いてきた時、すごく悲しそうな顔をしていた。もしかして恋愛のことで何かあったのかな……考えてみても、単なる想像でしかなかった。

 お昼休みも半分を過ぎた頃、一花はクラスを覗いていた篠田に手招きで呼び出された。廊下に出ると、元気はなさそうだが笑った顔を見てホッとする。

「あの……昨日智絵里から連絡が来たんだ。もしかして雲井さんが何か話してくれたのかなって思ってさ」
「うん、直接会って、少しだけ話した」
「あ、会ったの⁈ 元気だった⁈」

 その剣幕に圧倒される。なるほど、第二のお母さんっていうのはこういう感じなのか。

「ちょっと痩せたかなって思ったけど、元気そう。大学も受かったって言ってたし。篠田くんは智絵里に何があったかは聞いた?」

 一花が尋ねると、篠田は目を伏せて首を横に振った。

「……そういうことは何も話してくれなくてさ」
「そっか……あの、智絵里って好きな人とかいたのかな? 恋愛で悩んでいたとか……」
「聞いたことないな。しかもそういう話なら、男じゃなくて女友達にするんじゃないかな」
「……そうだよね。ただなんか学校に行きたくない理由が何かって考えてたら、やっぱり会いたくない人がいるんじゃないかと思って」
「会いたくない人……」
「こんなこと篠田くんにお願いするのもどうかと思うんだけど、智絵里が登校したらそばにいてあげて欲しいんだ。智絵里が関わりたくないと思っている誰かから守ってほしい。私はクラスが違うからずっとはいられないし」
「……その誰かが俺かもしれないじゃん」
「それはない。智絵里が篠田くんのことを信頼してるって言ってたから」
「……信頼?」

 その言葉を聞いた篠田の表情と声が、心なしか明るくなった気がした。

「うん。第二のお母さんって言ってたよ。なんかお母さんには意地を張りたくなるらしい」
「あはは! なんだそれ! でも……ちょっと安心した。わかったよ。智絵里が登校したら近くにいるようにする」
「うん、お願いします」

 篠田くんは智絵里のことを心から心配している。二人が信頼しあっていることがわかり、一花は嬉しかった。
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