背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
* * * *
店を出た一花は尋人の姿を見つけると、ゆっくりと近付く。
「あの……お待たせしました」
「あぁ、こちらこそ申し訳ないね」
尋人に連れられ入ったのは、オードリーという名のダイニング・バーだった。先日二十歳になったばかりの一花はまだ経験したことのない、大人の雰囲気が漂うお店だった。
カウンター席の一番奥へと向かい、二人は並んで座った。するとカウンターの中にいた銀髪のバーテンダーが二人に近付く。
「尋人さん、今日は何になさいますか?」
「この後会社に戻るから、ノンアルコールで何か作ってもらえますか? 一花ちゃんはどうする?」
「あっ、じゃあ私もノンアルコールでお願いします」
尋人が一花の名前を呼ぶと、カウンターの中の男性が驚いたように一花を見る。その様子を見ていた尋人が笑い出す。
「そっ、噂の一花ちゃんだよ」
「左様でございましたか……」
「あのっ……噂というのは……」
「あぁ、申し訳ないね。この店のマスターの藤盛さん。俺や尚政を小さい頃から見てくれてたんだ」
「尚政さんからお噂は予々……」
「そ、そうでしたか……」
尚政がどんな話をしていたのか気になったが、今はそれよりも尋人の話が気になり落ち着かない。
藤盛が二人の前にカクテルグラスを置く。透き通るブルーが美しい。カクテルを口にするものの、一花の不安の方が勝り、味がわからなかった。