背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
「実はね、今アメリカ支社への異動が打診されているんだ。それに尚政を連れて行きたいと思ってる」
それは一花の想定を遥かに超えるものだった。今の北海道でさえ遠いと感じていたのに、海外ということへの衝撃が大きかった。
「まだ決定事項ではないけどね。決まる前にとりあえず一度尚政をこちらに戻そうと思っているんだ」
北海道の距離であの反応を見せた先輩が、アメリカなんていうことになればどうなるのだろう。たぶんもう無理だって諦めてしまいそう。想像しただけで怖くなる。
「たぶんここにいる全員が同じことを想像したはずだよ。みんな尚政のことを理解しているからね」
顔を上げると、尋人と藤盛が笑顔で一花を見ていた。
「これからすごく勝手なことを言うのを許して欲しい。俺は尚政をアメリカに連れて行きたい。だけど一花ちゃんにも、尚政のことを諦めてほしくない。もちろん尚政にも」
「……どういうことでしょうか?」
「俺はね、尚政には一花ちゃんが必要だと思っている。でもあいつの性格上、必ず一花ちゃんに別れを告げると思うんだ。だからこそ一花ちゃんに尚政を引き止めて欲しい」
「そんな……!」
「もし一花ちゃん自身が無理だと思うのなら引き下がってくれていいんだよ」
「そ、そんなこと絶対にありません! 私はそんな軽い気持ちで先輩のそばにいるわけじゃありませんから……。でも後ろ向きになった先輩を引き止めるなんて……きっと無理に決まってます……」
「そんなことないよ。俺は一花ちゃんなら出来ると思ってる」
その時尋人の携帯が鳴り、彼は慌てて店の外に出て行く。