背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
一人残された一花は、肩を落として下を向いた。今回は北海道が決まった時と状況が違いすぎる。
先輩のことが好きなのに、その気持ちに自信が追いつかない。そばにいないことが、こんなにも私の気持ちを弱くする。
「あまり深く考えなくて良いと思いますよ」
落ち込む一花に藤盛が優しく語りかけた。
「尚政さんはこちらにいらした時に、あなたがたくさんの愛情をくれる、そして愛される喜びを教えてくれると仰っていました。昔の尚政さんも、好きなものは好きというストレートなお子様でしたが、あの一件以降、真っ直ぐに自分の想いを伝えることが怖くなってしまったようです。だからこそあなたからの真っ直ぐな愛を受けると、自分もそれでいいのだと肯定されるのではないでしょうか。引き止めるためにではなく、ただあなたの愛情を真っ直ぐ伝えれば、尚政さんはきっとあなたがどれほど大切な存在であるか気付くはずです」
「そうでしょうか……」
「私は尚政さんが生まれた時から知っておりますが、今が一番満たされたお顔をされてますよ。誰もがそうだとは思いますが、万人に好かれるよりもただ一人に愛されたい……尚政さんもそのお気持ちが強いように思われます。なにしろ一花さんに甘えているそうですから……ぶふっ」
ここにいる時の先輩って、一体どんな感じなのかしら……。藤盛が吹き出すのを見て、一花は首を傾げた。
そこへ尋人が戻ってくる。
「ごめんね、ちょっと急ぎで行かないといけない店舗があって……」
「私は大丈夫なので、お気になさらないでください」
「いろいろ勝手を言ってしまって申し訳なかったね」
「いえ……」
尋人が店を後にすると、一花はカクテルを飲み干す。カバンから財布を出そうとすると、藤盛が止めた。
「でも……」
「これは私からの激励です。尚政さんのこと、よろしくお願いいたします」
頭を下げた藤盛に、一花も慌てて頭を下げる。
「こちらこそありがとうございます。藤盛さんが言ってくださったように、先輩に精一杯の愛を伝えてみます。それでどうなるかはわからないけど、後悔だけはしたくないので」
「陰ながら応援しておりますよ!」
藤盛からの励ましを受け、一花は自分自身に気合を入れ直す。離れていた分、募った想いを目いっぱい先輩に伝えよう。それが今の私に出来る最大限だ。