背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜

* * * *

 昼食後におしゃべりを楽しんでいた一花は、ドアからクラスを覗き込んだ尚政を見つけて飛び上がる。

 尚政は一花を見つけるとにっこり笑って手を振った。

 それに気付いた芽美と智絵里が驚いて一花を見る。

「体育祭の時の先輩じゃん! まさかの急接近⁈」
「何があったの⁈」
「ま、また今度話すから! とりあえず行ってくる!」

 一花はカバンの中からラッピングした生チョコを取り出すと、詮索してくる二人から逃げるように尚政の方へ走る。

 高校生がクラスに来たことで、生徒たちも騒ぎ出す。それを察知して、尚政は一花の手を取ると階段を降り始める。

「せ、先輩⁈」
「外行こう。この時間なら誰もいないからさ」

 先輩にとってはなんてことないのかもしれないけど、手を繋ぐことは私にとっては大事件なの。

 一花の胸はずっとドキドキが止まらない。

 先輩と知り合いたいとは思ったけど、こんなに早く叶うとは思いもしなかった。

 校舎を出ると、校庭との境に位置する生垣の中に隠れるように入っていく。二人とも走り疲れて、芝生の上には座り込む。

「なんか急に教室に行っちゃってごめんね」
「いえ全然! 部長が伝えてくれたんですよね。私こそ来ていただいてすみません」

 それなのに、あんなに騒がしくなってしまい、先輩に嫌な想いをさせていないか心配だった。

「あの……これ……!」

 一花は、作った生チョコの入った箱を渡す。部活で作ったものと違い、一人で作ったものを食べてもらうのは少し緊張した。

「本当につくってくれたんだ! なんか逆に気を遣わせちゃったみたいでごめんね」
「いえっ! 先輩にはお礼もしたかったので……」
「それって体育祭の?」
「……覚えてくれていたんですか?」

 一花の嬉しそうな顔をみて罪悪感が生まれる。

「いや……柴田に言われて思い出したって感じ」
「それでも思い出したってことは、覚えてくれてたってことです。ありがとうございます……なんだかすごく嬉しいです」

 一花が微笑むと、尚政はなんとなく安心した。自己解釈が面白いし、なんだか不思議な子だな……。
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